読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

まつたけのブログ

世界の片隅で愛を避ける孤独なキノコの魂の叫びを聞け!…聞いてください(◞‸◟)猫とマンガとアニメと嵐をこよなく愛するまつたけによるまつたけのブログ

どうしようもない僕に天使が降りてきた

おとぎ話

どうしようもない僕に天使が降りてきた。

朝起きたら枕元に立っていた。僕が目を覚ますなりまるで当たり前みたいに「ほら、行くぞ」って言うのだった。

 

最初はお迎えかと思った。でも天使は「はぁ?まだ寝ぼけてるのか?帰るんだよ」と呆れた顔をするのだった。

「へ?」

「なんだお前、ほんとに覚えてないのか?帰るんだよ。お前は天使!天使なの!天使が天国に帰るなんて指名手配された売人が情婦のもとに帰るくらい自然なことだよ!」

よくわからない。

ようやく少しずつ起きてきた頭で説明の下手くそな天使の話を整理すると、どうやら僕は天使で、人間界には見習い天使の研修の一環として派遣されてきたらしい。たまになにかのショックでその記憶を失ってしまう天使がいるらしい。そういえば僕は逆子で母は随分出産の際に苦労したという話を聞いたことがある。

いや、そんなことはどうでもいい。帰るってなんだ、どういうことだ?

「今ですか?一時的に?」

「なに言ってんだよ、もう研修は終わりだよ。こんな人間臭い空気の悪いとこは引き上げて天国に帰るぞって言ってんの!」

「え、いや、でもそんな急に言われても、僕にも一応こっちでいろいろ・・・あの、それに僕彼女がいるんです!」

天使は一瞬怒りそうな顔をして、それからすぐに呆れたようにため息をついた。

「あのなあ・・・お前人間の彼女って・・・曲がりなりにもこれは公務だよ?」

天使というのは公務だったのか。知らなかった。

「でもあの、急にいなくなったら心配すると思うんです。だからせめてお別れだけでも」

「ったく・・・じゃあ今日中にすぐ終わらせろよ」

そんなわけで僕は朝起きるなり天国に帰ることになり彼女と別れないといけなくなったのだった。え?そんなバカな話ってあるの?

とはいうものの僕は混乱する頭でわけもわからずに彼女のうちへと向かった。彼女はだいたいいつも家で本を読んでいる人なのだ。

僕を家に入れるなり彼女はなにか気づいたらしい。正直僕はなんて言って説明すればいいかわからなかったのでこれは助かる。

「で、なに?どうしたの?」

よし、これで少し話しやすくなった。

「天国に帰らないといけなくなった」

僕の口からは考えていた以上にマヌケな言葉が飛び出していた。

「あ、いや、天国に帰るっていうのはそういう意味じゃなくて、違くて、僕は実は天使で、だから帰らないといけないんだって」

「ふ~ん」と言って彼女はまるでちょっとでも心配して損したみたいな顔で冷蔵庫から牛乳を出して飲んでいる。え?そういうリアクション?

「え?いや、つまり、だからそれでもう行かないといけないんだ・・・」

「別れるってことでしょ?いいよ、しょうがないじゃん」

「あ、違うよ!他に好きな人ができて別れたいからこんなこと言ってるんじゃないよ!」

「それくらいわかるよ。あなたはほんとは天使で、だから天国に帰らなきゃいけないんでしょ?それじゃしょうがないねって言ってるの」

僕は今更ながらにまだ起きてから2時間も経っていないこの状況を信じられなくなっているというのに、女の現実感覚ってこんなもんなんだろうか?たしかにつきあってるときからクールであんまり考えや感情の読み取れない人ではあったけど、こんなにあっさり受け入れられるとかえってひとりでパニクっている僕がおかしいんだろうか?

「まあ元気でがんばんなよ」

そんな言葉を最後に、僕は彼女と別れたのだった。

うちに帰ると天使が三國無双の7をやっていた。

 

「お、早かったな。これ面白いからもっとゆっくりしてきてよかったのに。あ、そうだ、お前もやるか?」

今はそんな気分じゃなかった。

「天使の仕事ってなにをするんですか?」

「そりゃお前、やっぱり天使たるもの聖人の守護だよ。って言ってもまあ今は聖人なんてほとんどいないから人間どもの恋愛成就とかキューピッドみたいなこともするんだけどな」

「恋愛成就・・・」

僕にはなにがなにやらわからなくなっていた。天使ってなんだ。いや、そんなことより人間ってなんだ。恋って?今まで僕が自分だと思って生きてきた人生はなんだったんだ?あれ?そういえば僕は・・・おかしい・・・自分のことがほとんど思い出せない。

「でもまあお前は事務だからあんまり関係ねえな。うらやましいよ、営業はあちこち飛び回って、あ、今の比喩じゃなくてほんとに飛び回ってってことだから、あちこち飛び回ってもう翼が棒になるっての!」

つっこんでほしそうな天使につっこんであげるだけの元気もない僕をみかねたのだろう、珍しくやさしげに天使はこんなことを言った。

「天使はいいぞ。人間みたいに苦悩とか絶望とかって感情はないからな。まあ一応どんなもんか知っておきましょうって意味での研修だよ。天国に帰って少しすれば、すぐに全部どうでもよくなるよ。・・・あ、それから羽根は向こう帰ったら支給するから!」

支給制だったのかよ!・・・とか思わずツッコみつつ、僕は天国に帰ることになったのだった。

「じゃ、行くぞ」というと天使の体が金色にまぶしく光り輝いていく。僕は思わず目を閉じた。

 

 

彼の携帯からの電話に出ると、知らない男の人の声だった。

彼が5階の部屋から飛び降りたのだという。この番号しか入っていなかったのでということだったが、私は「そうですか」と言ってそのまま電源を切った。

私にとってはこうなるずっと前にもう彼は死んでいた。彼はもうずっと前に壊れていた。

別れて半年近くが経っていた。最後に久しぶりに会ったとき、つまりそれは今朝のことなのだけど、彼からはアルコールのにおいがしなかった。

彼は立派な天使になれるのかしら。アル中の天使なんて聞いたことがない。

やさしかった頃の彼を思い出す。たしかにあの頃の彼は天使のようにやさしかった。

人間としてはもうやり直せないとこまで行ってしまった人だから、どうか本当に天使がいるなら、神様がいるなら、あの人をやり直させてあげてください。

私は羽根なんてない人間だから、やり直すにはもう少し時間がかかるけど、窓から飛び降りたりはしない。当てにするわけじゃないけど、この先の私に天使の加護があったらいいなと思う。

                                 おしまい

広告を非表示にする