もしかしたら書くことが好きなのかもしれない
私、もしかしたら書くことが好きなのかもしれない。
いや、そんなはずがない。
でも・・・。
なんでこんなに、アイツのことが気になってしまうんだろう?
そんな甘酸っぱくも切ない青春のストーリー!(単行本全3巻)
第1話 世界のすべてにファックユー
ずっと書くのがめんどくさくて好きじゃないと思ってた。話すほうが楽だし好きだと思ってた。
それから私はかなり自閉的だったり回避的なところのある人間だから、自分の中にすでにあるものを、どうしてわざわざめんどくさい思いをして人にわかってもらおうとなんてしないといけないんだ、って思ったりもしてた。
それは今でも変わらない。もちろん人にわかってもらうために言葉を尽くすことの大切さみたいなものは私だって人並みに知っているつもりだし、当然わかってほしい人にはわかってもらえるように書いたり話したりするけど、でも誰彼となくわかってもらえるように丁寧に説明したいとか、そういうことには興味がない。
不特定の誰も彼もにわかってもらうなんてそもそもが不可能だし。それでもできるだけたくさんの人にわかってもらえるように心を砕き、言葉を尽くす人が立派な人なのかしら?
とは思わないでもないけど、別に私は立派な人なんかじゃないし、不特定の誰だか知らないような人や、こっちのほうで好きになれないような人たちにわかってもらったりしなくていいし、なんならわかってほしくもない。それくらい嫌悪感も強い人間だった。
だから、書くことはずっと私にとっては面倒くさくてうっとうしい作業だった。自分の中にあるものを、そのまま脳内から吸い取って形にしてくれる掃除機があれば一番楽なのにな~、とかのびたみたいなことを考えたりしていた。
第2話 骨になるまでフォーリンラブ
でも最近になって、もしかして私、アイツのことが好きなんじゃ・・・/////って気がしてきた。
なんかアイツのことが気になる・・・。そう思うとき、人はすでに恋に落ちている、って私のおじいちゃんの孫が言ってた。
いったん気になりだすと、もうその人のことしか考えられなくなる。その人のことを想うだけで、目は潤み、胸は高鳴り、頬は紅潮し、呼吸が荒くなり、そして固く閉じていた蕾がそっと膨らんでいくのを感じる・・・。
濡れそぼった蕾は真夜中静かに花開く。そして妖しくもかぐわしい香りとともに止めどなく蜜はあふれ出し、私は思わずペンを取らずにはいられない。
あの人がくれた、お気に入りの万年筆。あの人の強い筆圧の癖が残っていて、私には少し書きづらいけど、その書きづらささえも今は愛しい。
やっと気づいた私の気持ち。遅すぎた愛してる。届かないアイラブユー。骨になるまでフォーリンラブ。
やっぱり私、アイツのことが好き。あなたのことは今でも大切だけど、私このままじゃいつまでも前に進めない。あなたのことは今でも大好きだから、だからあなたのことをこのまま呪いにしてしまいたくはない。
そのためには前に進まなきゃ。しあわせは前にしかないよ、って教えてくれたアイツとなら、私、もう一度歩き出せる気がする。そう思った。
第3話 燃え上がれバーニングラブ
そんなこんなで最近なんてもうブログを書いてない時間なんてFF5やってる時間かあまちゃんを全話見てる時間かマンガ読んでる時間かアニメ見てる時間か本読んでる時間か寝てる時間かご飯食べてる時間かお風呂入ってる時間かツイッターやってる時間か指回し体操やってる時間くらいしかないんじゃないかってくらい、それくらいひたすらストイックにパソコンと・・・あ、「ひたすらストイックに自分自身の内面と向き合ってる」、の方がかっこいいかな?・・・それくらいひたすらストイックに自分自身の内面と向き合ってる。
結局私はそれが好きなんだと思う。私の中の、まだ私の知らない私。夜の帳に耳を澄ませて、心の襞を静かになぞる。そうすると、聞こえてくるの、微かに、でも確かに。アイツが会いに来てくれる足音が。
見つめ合う瞳。アイツの目は燃え盛る炎。目だけじゃない。腕も、体も、全部燃えてる。そしてその手でアイツは私に触れる。そうして、私も炎になる。どこからが私で、どこまでがアイツなのか、もうそんなのなにもわからなくなる。
いえ、そんなことに意味はない。今この瞬間、炎として燃え狂うことだけがすべて。それだけが今、この瞬間、生きている意味。
第4話 今、この瞬間、それだけがすべて
前はとにかく慣れが大事なんじゃないかとか、慣れて習慣になってしまえばそんなに面倒じゃなくなるんじゃないかとか、いろいろ考えたこともある。実際習慣にするために無理矢理でも毎日書いてみるとか、一応少しの間やってみたけど、少なくとも私の場合は苦痛なだけでまったく向いていなかった。
気が向いたときだけ、気が向いた内容を、そのときの気持ちのままに書き殴るのが楽しいし気持ちいいのだ―あの愛の炎の中で私たちはひとつになり、そして悟った。
真実は、一瞬の中にしかないのだと。今、この瞬間、それだけが真実であり、ほかのすべては偽りなのだと。
そして炎は虚偽を焼き尽くす。過去、未来、築き上げられた「私」というストーリー。すべては虚偽であり、幻想なのだと。真実の炎の中で、残るものはただ真実のみ。そして残るものはただ炎、それ自体だけなのだと。
第5話 燃え尽きてトゥナイト
駆けつけた消防隊員が鎮火した私を抱きとめたとき、私はすでに意識を失っていた。
3ヶ月後目を覚ますまで、私はこの世のものとは思えないしあわせそうな笑みと、それからまるで母親と引き離された幼子のような泣き顔を交互に浮かべながら、「待って」「いかないで」「また会える」「約束」などの断片的な単語を繰り返していたそうだ。
なにか夢を見ていたような気もするけど、よく思い出せない。思い出そうとするほど、どこか遠くへ行ってしまいそうな、そんな予感がして胸が苦しくなる。まるで私の心臓の一部が切り離されるような。
無理に思い出さなくてもいい。先生はそう言ってくれた。「代わりになんでもいいから、今書きたいことを書いてみればいい」そう言って一冊のノートとかわいいボールペンを渡してくれた。
ボールペンを握ると、また胸の中が絞めつけられるようにひどく痛んだ。先生は「しばらくそれで我慢してほしい。君の万年筆は燃えてしまったからね」と言った。
万年筆?私は万年筆を持っていたのだろうか?前にもこうしてなにかを書いたりしていたのだろうか。
「思い出さなくていいよ。思い出そうとしなくていい。例えばそうだな、これからなにをしたいかとか、これからどんな人と出会いたいか・・・。どんな人と結婚して、どんな子供がほしいか。未来のことを考えてみるのもいい。もちろん今の気持ちを書いてもいい。とにかくあまり無理せず、気の向くままに好きに書けばいいんだ」
先生は話しながら、なんだかとってもつらそうだった。先生、泣かないで。私、先生が泣いてると苦しくなるよ。先生泣かないで。
第6話 私は、生きている
それから私は書き続けている。無理なんてしていない。気の向くときだけ、気の向くままに好きに書けばいい。そう言われた通りにしているだけ。
それでも、あふれてくる言葉に書きとめるペンが追いつかない。書きたいことがたくさんありすぎる。
自分の中にあるものをそのまま一瞬で伝えたい人にだけ伝えられる装置があればいいのになー。
あれ?私前にもそんなことを考えたことがある?
だけど、一生懸命伝えようとして、心を砕いて言葉を探して、苦労して言葉にするからいいのかもしれない。・・・なーんてね。
でも伝えたい人?私にそんな人がいるかしら?探す。記憶の中に靄がかかっていて、顔がぼやけてよく見えない。男の人?女の人?わからない。
「無理しなくていいよ。まずは私に、どんなことでもいい。今君が感じている気持ちや、私に伝えたいことがあればそれを書くといい」と先生が言った。
私は先生の目をじっと見つめて、それからノートの見開きを使って、言われた通りに今感じている気持ちを大きな字で書いた。
「お腹すいた。なにか食べたい」
先生は一瞬大きく目を開けて、それから大きな声で笑った。「そうだね、ご飯にしようか」
うれしくなって、私も笑った。